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下山発電所美術館

 前回は関電トロリーバスの記事を書きましたが、この日は長野県だけでは終わりませんでした。

 大町から北に向かい糸魚川へ抜けた私は、そのまま天険・親不知を越えて富山県の入善町へシビックを走らせました。
 目的地は下山(にぜやま)発電所美術館です。「発電所で美術館?いったいどっちなんだ…」と思う人もいるかもしれませんが、美術館なのでご安心ください。

下山発電所美術館の外観。一段下がっているところは、放水路を改装したのだろう。

 正確には、大正時代に建設された水力発電所を北陸電力が入善町へ譲渡し、現代美術館へ改装した施設です。

 クルマを降りて門に向かうと、右側に水車が並んでお出迎えしてくれます。この形はフランシス水車ですね。この段階でとんでもない施設だなという雰囲気を醸し出しています。

門松の一種だろうか。

 この美術館は、3基の水車と発電機が並んでいた建屋の内部を改装して展示スペースにしてあります。3基のうち入り口から最も奥にあった設備はそのまま残されていて、芸術作品だけでなく発電所設備も鑑賞することができます。

館内は広々とした空間が広がっている。これらすべてが展示スペースだ。

 通常は館内撮影禁止なのですが、今回は特別に作品制作者の意向でカメラを使うことができました。その厚意に甘えて、美術館内部を隅々まで撮影しました。

 この発電所美術館が素晴らしいのは、「水力発電所」という特殊な用途のために作られた建物を、最大限利用して展示の空間として利用している部分です。
 特に、水圧鉄管の開口部をそのままにして、奥にスクリーンを設置し映像作品を鑑賞できる場所にしている箇所は、自由な発想で活用しているんだなと感銘を受けました。

手前のお面が展示物なのだが、設置場所はむき出しにされた水圧鉄管の内部である。

 発電所内部の機器は大部分が撤去されていますが、1基の水車と発電機は保存されており、こちらにもしっかりした解説がついていて楽しむことができます。

1基だけ残された水車。外形は軸方向に長く、珍しい。

 この下山発電所は段丘崖の小さい落差を利用しているため、出力を上げようとすると流量を増やす必要があります。そこで、より大きな回転力を取り出すために、横軸フランシス水車を背中合わせにした「横軸二輪単流前口双子式フランシス水車」を採用していました。そのため、水車のケーシングが前後に長い独特な形状となっているのです。

関西電力旧八百津発電所の放水路にも、同じ形式の水車が設置されていた。
独・ホイト社で1925年に作られたそうだ。

 また、2階の奥は休憩スペースとなっているのですが、なんと系統連系用の機器が並ぶ中央に椅子があり、丁寧に解説も付属しているという充実ぶりでした。

落ち着きのある空間に思える。しかし、一部の人にとっては大興奮間違いなしだ。

 この美術館で最も衝撃を受けたのは、駐車場へあたかも当然のようにフランシス水車が鎮座していたことです。確かに駐「車」場ですから、水車があっても問題はないのでしょう。しっかり枠線の中に「駐車」されていて、腕も確かなようでした。

日本全国を探しても、フランシス水車と並べて駐車できる場所は少ないだろう。

 自分とは全く違う視点で発電所を捉えた施設に入ったことで、これまでにない満足感と楽しさを覚えながら美術館をあとにしました。