中部電力南向発電所

 権兵衛峠を下って伊那谷へ降りた我々は、中央道を使って一路南へ進路を変えました。途中駒ケ岳PAなどがありましたが、それらを飛ばして一目散に発電所へ向かいます。
 伊那谷最初の発電所は、福沢桃介が最後に手掛けた南向(みなみかた)発電所です。本シリーズの導入で彼を紹介しましたが、木曽川だけではなく天竜川の開発も行っていました。

外観は、落ち着いた公園のよう。

 南向発電所は、ひらけた県道のそばの、段丘崖の下にあります。ちょっとした落差に見えますが、約13km上流から取水し水車を回しています。
 アクセスしやすい場所にあるせいか、正面は芝生が整備されていてまるで公園のようです。入り口には福沢桃介の胸像と彼がのこした言葉「水而火成」が飾られています。これは福沢桃介が好んで使っていたもので、「水を以て火となす」という意味です。

福沢桃介の胸像が鎮座している。

 黎明期の電力事業は都市部の電灯需要が主であったため、火力発電所からごく近い範囲へ送電していましたが、需要が電灯だけでなく工場や電車などの動力に移り変わると、より経済的に大電力を得ることができる水力発電へ移行しようという動きが出てきました。この言葉は、福沢桃介が水力発電所の建設によって発電事業を成功させようとする気概にあふれた言葉だと思います。

 さて、発電所の外観を見ていきましょう。正面から見ると、クリーム色の外壁に直線的な窓が設けられたシンプルさがありながら、ところどころに入れられた突起や半円の窓が面に表情を与えてくれています。木曽川の桃山発電所にも似た外観ですね。大同電力の息吹を感じる外観です。
  建屋のすべて後ろに水圧鉄管や変電設備が集約されているので、正面から見るとまるで文化施設のような印象を受けます。

実にモダンな外観をしている。

斜めから見ると、斜面に設置されたマッシヴな水圧鉄管や、オリジナルと思われる鉄構が少しだけ見えるのが、興味をそそります。

太い水圧鉄管が、流量の豊富さを物語っている。

 次回は少し下流へ行った場所にある、長野県企業局小渋第二発電所の鉄塔を紹介する予定です。